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人々は必ずしも最先端を求めてるわけではない

世はバブル全盛期の1989年。当時のバイクメーカー各社はしのぎを削って最先端技術を搭載したマシンを世に送り出し、人々も更に熱狂し、メーカーも更に最先端を…を繰り返していた。新しいがステータスで注目を浴び自慢できそしてモテた時代だった。まあ今となってはかなり熱いという良き時代でもあってそれはそれで別の意味で良いのだが今回のお話は、当時を振り返って観てみようと思う。

この時代、昭和から平成に突入していく激動の時代ともいえた。少なくても自分にはそうなのだ。土地の値段はうなぎ上りに上がっていき、ありとあらゆるモノがお金に変わったと聞く。12歳の自分にはハッキリとは分からなかったが、賑やかだった。

バイクメーカー各社は毎年モデルチェンジを繰り返し、他社のバイクがより速いバイクを世に投入しようものなら負けずとそれに追いつけ追い越せをモットーにバチバチと火花散らしていた。

そんな中、川崎重工が前触れなくポツンと一台のバイクを投入したのだ。

それがZEPHYR(ゼファー)だ

当時400ccクラスの馬力規制は59馬力、水冷4バルブ、一本Rサスペンション、セパハン、バックステップ….が当たり前の風潮だったのですよ。レースにみんな夢中で、レース仕様のフルカウルレーサーレプリカが憧れの的だった中それは、狂気的な出来事に見えたことだろう。43馬力、空冷2バルブ、2本サス、アップハンドル…マスコミ達は口を揃えて「誰が買うんだ」と言っていた。

フタを開ければビックリ、大ヒット!売れに売れた。生産が全然追いつかない程に。

かつてのZ2を思い出させるフォルムは幅広い年齢層の心を鷲掴みにしたのだ。それまでバイクは全てバイクという名のジャンルしか無かったんですよ、こいつが登場するまでは。「ネイキッド」というジャンルを作り出し社会現象にまでなった。ネイキッドとは半裸という意味でフルカウルのバイクはレプリカというジャンル分けにされた。とにかくかこいい!!のだ。ヤンキー達の定番と化していた。

なぜ、ここまで熱狂されたのかひも解いていきたい。人々は最先端を待ってはいたがどこかで飽きていたように思える。それは終わりがないからだろう。去年買ったものが古いと言われる世の中について行けなくなっていたかもしれない。現に今の時代は30年前の車が普通に走っているではないか。人々は気づき出したのだ、本当の魅力とは何かを。バイクは速く走るためだけじゃないという事実に、時に景色を眺めながらゆったりと走りたい、カッコイイ愛車に乗る自分に酔いしれていたい、気軽に乗りたい、タンデムしたい…それを気づかせたのがZEPHYRなのだ。

当然他社も後追いしてきたがそれまでカワサキの独り勝ち状態だった。というのも他社は形こそネイキッドでも水冷や59馬力であったりとエンジンは最先端で勝負してきたのだ。だがゼファーはそれでも売れ続けて20年もの間生産し続けてきた、まさに怪物といえよう。当時、漢カワサキのような雰囲気だったのだがゼファーは乗り易さからも女子にも非常に人気の高い一台となっている。

ちなみに中古市場でのゼファー価格はうなぎ上りで現在どえりゃーことになってます。

今後も更に価値が上がっていくであろう旧車たち。映える時代だからこそ未来だけでなく過去にも注目が注がれてきているのだろう。最先端だけではなく愛着感、そしてどこか懐かしいのに新しい、そんな製品を本当はみんな欲しがっているのだろう。